「ツァイス」という言葉の響きには、どうしようもなく酔わされます。「ライカ」という名にも確かに魅力はありますが、色気という点では、私にとってツァイスのほうが一段深いところに刺さる気がします。そんなふうに感じるのは、私だけでしょうか。

私にとって初めてのツァイスレンズは、Carl Zeiss C Sonnar T* 1.5/50mm ZMでした。しかし当時は、まだレンズの「味」など分かっておらず、「なんだか変なレンズだな」という印象のまま、あまり使うこともなく手放してしまいました。今思えば、当時の自分を呼び出して、しっかり叱ってやりたい気分です。いま同じレンズを買い戻そうとすると、価格は大きく上がっており、気軽に手を出せるものではありません。だからこそ、あのとき売ってしまったことを強く後悔しています。振り返れば、こうした“愚かな売り買い”を、私は何度も繰り返してきました。
レンズというものは、本当に人を狂わせます。理性では分かっていても、心が先に動いてしまう。手放したあとに、その価値や魅力に気づいてしまう。そんな経験をしているのは、きっと私だけではないはずです。

今回は、そんな人を狂わせる存在――Carl Zeissのレンズを、Nikon Z5に装着して撮影しました。ツァイスという名が持つ魔力と、この28mmという画角が生み出す世界を、あらためて噛みしめながらの撮影です。早朝の新宿を靖国通り沿いから花園神社あたりまで歩きながら撮影しました。まだ人の気配がほとんどなく、街が目を覚ます前のわずかな時間。その静けさを味わい尽くすように、シャッターを切っていきます。昼とはまったく表情の異なる新宿を独り占めしているような感覚があり、この時間帯ならではの空気感を存分に楽しむ撮影となりました。










花園神社は酉の市の撤収作業をしていました。酉の市の記事は α7 IV×Distagon 35mm f1.4で撮影した時のもの。あの時の賑わいが嘘のようです。


Nikon Z5は、表面照射センサーを採用したカメラです。エントリー機から中級機まで、長く使われてきた従来型のセンサー構造で、コスト面では扱いやすい。一方で、高感度になるとノイズが出やすい、という話もよく耳にします。光をより効率よく集めるという点では、裏面照射センサーのほうが有利だと言われています。受光面の構造を見直したことで、高感度や暗所での性能が向上し、いまでは多くの機種で当たり前の存在になっています。そう考えると、表面照射センサーのカメラは、少しずつ数が減っているのでしょうか。
「裏面照射」という言葉を初めて意識したのは、たしかSONYのα7R IIでした。それまで当たり前だと思っていたセンサー構造に、実は“表”と“裏”があったのだと知ったときの軽い衝撃は今でも覚えています。新しい技術用語に心がざわつくと同時に、「今までは表面だったのか」という発見もありましたね。カメラの進化は、いつも気づかないうちに進んでいます。センサーの構造ひとつ変わるだけで、撮れる写真や撮影の快適さは確実に変わっていく。そんな変化の途中を実際に体験しながら写真を撮れていることは、なかなか贅沢なことなのかもしれません。技術の進歩とともにシャッターを切れる今の時代は、撮影冥利に尽きるのだと思います。

